2026年5月、東京芸術劇場プレイハウスにて、
NODA・MAP第28回公演『華氏マイナス320°』を観劇してきたかてこさん。
作・演出は、野田秀樹さん。
出演は、阿部サダヲさん、広瀬すずさん、深津絵里さん、大倉孝二さん、高田聖子さん、川上友里さん、橋本さとしさん、野田秀樹さん、橋爪功さんと豪華キャストが勢ぞろい。
東京公演は2026年4月10日から5月31日まで、東京芸術劇場プレイハウスで上演。
東京公演のあとには、北九州、大阪、そしてロンドン公演も予定されている作品です。
公式サイトでは、本作を、
「サイエンス・フィクション」ではなく、
「サイエンス・フェイクション」
と紹介しています。
“正しくない科学に基づいた、正しくないSF”。
その言葉の通り、今回の舞台は、
わかりやすい物語というより、
いくつもの時代、いくつもの言葉、いくつもの問いが、
観客の前に次々と投げ出されていくような作品でした。
正直に言えば、
「わかりにくい」
というのが、かてこさんの第一声でした。
この舞台から受け取ったものはなんだったのでしょうか。

(2026年かてこさん撮影:東京芸術劇場プレイハウスにて)
開演前から始まっていた、発掘現場の空気
かてこさんが客席に着いたのは、開演の15分ほど前。
けれど、その時点で、すでに舞台上には人の姿がありました。
発掘現場のような空間で、作業を続けている人たち。
まだ本編は始まっていないはずなのに、
舞台の世界はもう動き出していました。
骨が次々と掘り出される。
けれど、発掘チームが本当に探しているのは、
ただの化石ではありません。
彼らが探しているのは、
“謎の骨”。
「あれ、もう始まってる?」
思わず時計の針を確認してしまいます。
開始の瞬間を明確にしない演出も、今回の舞台らしい仕掛けだったのかもしれません。
現代、中世、古代へ、時代を行き来する物語
物語は、現代の化石発掘現場から始まります。
そこには、研究チームがいて、
製薬会社のような大きな組織の気配があり、
“謎の骨”をめぐって物語が動き出していきます。
現代では、深津絵里さんは研究所の教授として登場し、
阿部サダヲさんは教授を手伝う「タスケテ」という名前の青年を演じていました。
この「タスケテ」という名前も、今回の作品らしい響きがあります。
名前なのか。
叫びなのか。
助けを求める声なのか。
ひとつの言葉に、いくつもの意味が重なっているように感じます。
さらに中世では、
橋爪功さん演じる若さや不老不死を求める老科学者ファウストと、
広瀬すずさん演じるメフィストが登場します。
そして、
深津絵里さんが演じるヒ巫女がいる古代へと移っていきます。
現代。
中世。
古代。
それぞれの時代を行き来し、理解しようとするも、
答えがないまま、もやもやしたまま進んでいきます。

(2026年かてこさん撮影:飾ってあった舞台の模型、赤い電話ボックスがポイント)
言葉遊びの奥にあるもの
中世に登場するメフィストは、
ゲーテの『ファウスト』に登場する悪魔を思い浮かべます。
けれど劇中では、
「あくまで天使」
という言葉遊びともいえる台詞を放ちます。
悪魔なのか。
あくまで天使なのか。
救いなのか。
誘惑なのか。
この曖昧さが、今回の作品らしくもあります。
そして、この「あくまで天使」という言葉を使った意味は、
後から理解が追いつくのですが、絶妙な言い回しだと気づきます。
劇中、それ以外にもたくさんの言葉遊び的な台詞があり、
情報量も多く、そのスピードに追いつくのが大変だったそうです。
あとから気づく物語の骨組み
現在での「謎の骨」、
中世で出会う「あくまで天使」であるメフィスト、
古代で母体の中にいる赤ん坊を天使かどうか見分けることが出来るヒ巫女の存在、
それぞれの場面展開での話が、まったくつながっているように見えなかったのが、
突然、使われてきた言葉の意味合いを理解した時の衝撃たるや、鳥肌ものです。
台詞からの情報量、
言葉遊びの軽快さとは裏腹に、
理解した時のテーマは、
ずっしりと重い。
かてこさんが感じた 「わかりにくさ」の正体とは、
そもそもこの作品が扱っている問いが、
一個人が簡単に答えを出せるものではなかったからに他なりません。
“命の選別”という、重たい問い
科学の進歩。
医療の発展。
遺伝子の研究。
出生前診断。
命を守るための技術。
それらは本来、人を救うためにあるものです。
けれど、
「より良いものを選ぶ」
という考え方が強くなりすぎたとき、
人はいつの間にか、命を選び分ける側に立ってしまうのではないか。
違いがあること。
不完全に見えること。
合理性や効率の枠に収まらないこと。
それらを、社会はどこまで受け入れられるのか。
逆に、
「正しい命」
「望ましい命」
という考え方が強くなりすぎたとき、
そこから外れた命は、どのように扱われてしまうのか。
この問いは、とても重たいです。
そして、簡単に答えを出せるものではありません。
だからこそ、
観劇中にすっきり理解できなかったことは、
作品に対する自然な反応だったのではと感じています。

(2026年かてこさん撮影:今回は2階席から観劇したかてこさん)
“わかりにくい”も、ひとつの観劇体験
NODA・MAP『華氏マイナス320°』は、
“正しくない科学に基づいた、正しくないSF”という言葉の通り、
観る側の理解を軽々と飛び越えていくような舞台でした。
正直、かてこさんにとっては、
一度観ただけですべてを理解できる作品ではありませんでした。
場面転換は速く、
言葉遊びは多く、
現在・中世・古代が入り混じり、
気づけば物語の手がかりを見失ってしまう瞬間もありました。
観劇中にはつかみきれなかった。
でも、観終わったあとに考え続けてしまう。
命は、数値やデータだけで測れるものなのか。
効率や合理性から外れたものは、
本当に“不要”とされてよいのか。
人が人を、
「優れている」 「劣っている」
と分けてしまうことの怖さ。
その震えるような怖さが、
命の源が凍てつく温度『華氏マイナス320°』という
タイトルへも繋がっているのかもしれません。
『華氏マイナス320°』は、かてこさんにとって、
すっきり理解できる舞台ではありませんでした。
けれど、そのわからなさの先に、
命の温度や、
人が人として存在することの重みを
ずっしりと観る側に訴えかけてくる、
考えさせられる観劇体験となりました。
それは、ある意味で、
この舞台が観る側に残した爪痕なのかもしれません。
ステージに立つ人、その世界を創り上げるすべての人に、心から拍手を。
(Coffee break…)
ずっしりと重い舞台の後は、濃いめの一杯を。
舞台ファイル:NODA・MAP『華氏マイナス320°』
今回、かてこさんが赴いた日程は以下の通りです。
【公演名】NODA・MAP『華氏マイナス320°』
【公演期間】2026年4月10日 ~ 2026年5月31日
【会場】東京芸術劇場プレイハウス
【作・演出】野田秀樹
【企画・製作】NODA・MAP
【キャスト】
阿部サダヲ、広瀬すず、深津絵里、大倉孝二、高田聖子、川上友里、橋本さとし、野田秀樹、橋爪功、安東信助 他
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