1965年。
東京がオリンピック景気で沸き立ち、街の「浄化」が声高に叫ばれていた時代。
その裏で、ひっそりと生きることすら許されなかった人たちがいました。
映画『ブルーボーイ事件』は、当時実際に起きた裁判をもとに、
“性別を変えて生きる”ということがまだ許容されていなかった社会の歪みを真正面から描いた作品です。
出演者の多くをトランスジェンダーが演じていることも、本作の大きな魅力。
演技ではなく、当事者として背負ってきた肌感がそのまま画面に滲むようなリアリティがありました。
今の自分自身がどう感じるのか知りたくて、
気づけば足を運んでしまっていたというかてこさん。
60年前の現実は、どう映ったのでしょうか。

(2025年かてこさん撮影:TOHOシネマズ新宿にて)
取り締まりと差別に満ちた1965年
当時、売春防止法では一般の女性は取り締まりの対象だったが、
戸籍上「男性」のまま女性として働く“ブルーボーイ”たちは法の穴をすり抜けてしまう。
その矛盾に苛立つ警察が目を付けたのが、性別適合手術を行った医師。
「生殖能力を奪う手術は優生保護法違反」という理屈で医師を逮捕し、裁判にかけました。
治療か、犯罪か。
尊厳か、法律か。
その狭間に立たされたのが、患者の”彼女たち”だったのです。
「普通に生きたいだけ」――アー子の叫びが胸に突き刺さる
裁判で証人として呼ばれるのは、
医師のもとで手術を受けたサチ(主人公)や、
バーの同僚アー子やブルーボーイたちを取りまとめるメイ。
弁護士の主張は、“手術は性転換症という精神疾患の治療である”
と、1965年当時の医学的正当性を主張しました。
しかし、その言葉を聞いたアー子が激しく怒り、
「私は、女として普通に生きたいだけ!」
と叫ぶシーンは、この映画の核心。
病気だから手術が必要なのではない。
社会に合わせるための「治療」でもない。
ただ、自分として生きたい。それだけ。
この声に、60年経った今も胸を締めつけられます。
盛り上がりはない、だからこその“現実”味
本作は派手に盛り上げるタイプの映画ではありません。
裁判シーンも静かで、淡々と、重く進んでいきます。
けれど、それがとてもリアルに感じられます。
痛々しいほどの差別的な発言が飛び交う法廷。
当事者の存在を「異質」「矯正すべき」として扱っていた社会。
そして、手術すら“見せしめ”のように罰せられる時代。
観ていて胸が苦しくなる場面が多いですが、
「本当にこんな扱いだったのだ」と改めて突きつけられます。
60年を経て、今ようやく語れること
ブルーボーイ事件の後、
性別適合手術が認められるまでには実に30年以上かかっています。
今の時代もまだ差別は残っていますが、
こうした歴史を経て少しずつ前へ進んできたことを、
映画を通してしみじみと感じました。
昨今のエンタメのテーマとしても、注目されはじめ、
少しずつでも許容される時代にはなったことに
しみじみと安堵する時間となりました。
今が、少しでも彼女たちにとって生きやすい社会でありますように、
と、ただただ願うばかりでした。

(2025年かてこさん撮影:テーマカラーブルーで登場したキャスト陣、撮影OKでしたのでパシャリ!)
観劇ド素人所感
『ブルーボーイ事件』は、
人を“異質”と切り捨ててきた社会の残酷さと、
それでも生きようとした人たちの尊厳を静かに描いた作品。
劇的ではない。
派手でもない。
だけど、胸に残る。
淡々と進む裁判シーンの奥には、
「生きたいように生きる」ための叫びと痛みが確かに刻まれています。
当時の「浄化政策」という名のもとに、人を排除していた社会。
その中で、自分の存在を証明しなければならなかった彼女たちの気持ちを思うと、
どのシーンも静かに苦しくなります。
でも同時に、今の時代が少しずつでも変わってきたことにも気づかされます。
制度も、考え方も、表現も、完全ではないけれど前に進んでいる。
だからこそ、この作品は“ただの過去の事件”ではなく、
今を生きる我々にも問いかけてくるものがあるのでしょうか。
ステージに立つ人、その世界を創り上げるすべての人に、心から拍手を。
舞台ファイル:公開記念舞台挨拶付映画『ブルーボーイ事件』
かてこさんが赴いた舞台日程は以下の通り。
【公演名】公開記念舞台挨拶付映画『ブルーボーイ事件』
【公演期間】2025年 11月 15日(土)
【会場】 TOHOシネマズ新宿
【監督】飯塚花笑
【キャスト】
サチ(医師の手術を受けた東京の喫茶店で働く女性):中川未悠
若村篤彦(サチの恋人、東京で働く会社員):前原 滉
メイ(サチの元同僚でブルーボーイたちのリーダー):中村 中
アー子(ブルーボーイ、サチの元同僚):イズミ・セクシー
ベティ(アー子が立ち上げたお店「アダム」勤務ブルーボーイ):真田怜臣
ユキ(アー子が立ち上げたお店「アダム」勤務ブルーボーイ):六川裕史
ツカサ(アー子が立ち上げたお店「アダム」勤務ブルーボーイ):泰平
岡辺隆之(サチが働く喫茶店のマスター):渋川清彦
赤城昌雄(医師):山中 崇
時田孝太郎(検事):安井順平
狩野 卓(弁護士):錦戸 亮