舞台『月を抱く人魚』~理解より先に感覚で楽しむ雨月物語~

舞台『月を抱く人魚』~理解より先に感覚で楽しむ雨月物語~

2026年8月、シアタートラムで上演された『月を抱く人魚』―雨月物語より―を観劇してきたかてこさん。

実はこの日、もともと観劇予定が入っていたわけではありません。

夕方になって、
「今日、時間空いたな」
「18時以降で何か観られる舞台はないかな」
と思い立ち、16時頃からチケットを探し始めました。

そして、おけぴで見つけたのが『月を抱く人魚』。

しかも、
「1番前の席で譲ります」
というチケットでした。

すぐにメールで問い合わせ、18時過ぎに劇場前で待ち合わせ。
チケットを譲っていただき、そのまま18時30分開演の舞台へ。

こうして、思い立ってからわずか2時間ほどで、この日の観劇が決まりました。

年間100公演以上観劇していると、
何カ月も前から先行抽選に申し込んで楽しみにしている舞台もあれば、
「今日行けるかも」
から始まる舞台もある。

そして後者だからこそ出会える作品も、やっぱりあります。

(2026年かてこさん撮影:シアタートラム前にて)

『月を抱く人魚』とは

『月を抱く人魚』は、上田秋成による江戸時代の古典文学『雨月物語』をもとにした現代劇。

1776年に刊行された『雨月物語』は、幽霊や妖怪、人間の業などを描いた全9篇の短編集です。

刊行から250年を迎える2026年、鈴木アツトさんの脚本、生田みゆきさんの演出によって、
新たな物語として舞台化されました。

出演は、
岡本圭人さん
南沢奈央さん
薬丸翔さん
鈴木結里さん
上村聡さん
松岡依都美さん
相島一之さん。

舞台となるのは、現代の東京から琵琶湖、さらに戦国時代へ。

時間も場所も行き来しながら、現実と幻想、人間と人ならざるものの境界が曖昧になっていく物語です。

(2026年かてこさん撮影:シアタートラム)

『雨月物語』を知らず、内容も調べずに劇場へ

正直に言うと、『雨月物語』自体をほとんど知りませんでした。

もちろん『月を抱く人魚』のストーリーも調べずに劇場へ。
この日の観劇を決めたのが開演2時間ほど前なので、予習する時間もありません。

そんな状態で始まった物語。

岡本圭人さん演じる勝四郎は、アルバイトとして絵画モデルをしています。
日本画家・宮木の部屋でモデルを務め、一夜を共にする二人。

宮木は勝四郎の背中に、どこか人魚を思わせるような絵を描きます。

ところが翌日、
勝四郎が友人たちと再びその部屋を訪れると、
昨日まで人が暮らしていたはずの場所が、まるで長い間誰も住んでいなかったかのような古びた部屋になっています。

水道も電気も通っていない。
「え?」
となります。

ここから、現実なのか幻想なのか、その境目が少しずつわからなくなっていきます。

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水道の蛇口へ消えていく宮木

特に印象に残っているのが、宮木が再び現れる場面。

友人二人が外へ出て、勝四郎だけが部屋に残ったタイミングで、
それまでの世界からふっと切り離されたように、前日に会ったはずの宮木が現れます。

でも、
「時間がない」
というような空気感で、
最後には水道の蛇口へ吸い込まれるように姿を消してしまう。

人がドアから出ていくのではありません。
蛇口の向こうへ消えてしまう。

「あ、この人はやっぱり、この世界の人ではないのかもしれない」
そんな感覚になる演出でした。

幽霊なのか。
幻なのか。
それとも、別の時間に生きている人なのか。

はっきりとはわからない。
でも、その「わからなさ」が妙に面白いんです。

現代から琵琶湖へ、そして過去へ

宮木の痕跡を追う勝四郎は、友人とともに琵琶湖へ向かいます。

その先で出会うのが、高名な画家・青頭金子と、謎めいた執事・丸谷。
ここから物語はさらに大きく広がっていきます。

現代を歩いていたはずなのに、いつの間にか過去へ。
日本画の話をしていたはずなのに、人ならざる存在の話へ。

人魚。
鱗。
人肉。
不老不死。
戦国時代。

いくつもの要素が重なりながら、物語は時代も場所も越えていきます。

正直に言えば、
途中から、
「これは、どういうことなんだろう?」
と思いながら観ていました。

でも、不思議なことに、
「わからないからつまらない」
とはならないんです。

むしろ、
「この世界はどこへ行くんだろう」
という感覚で見続けていました。

(※画像はイメージです。)

2階建ての舞台そのものが異世界

今回、特に面白かったのが舞台美術です。

シアタートラムは決して大きな劇場ではありません。
けれど、その限られた空間の使い方がとても面白い。

舞台は上下に空間を持った、2階建てのような構造。
1階だけでなく、2階の窓にも人物が現れます。

宮木が突然、上階の窓に姿を見せる。
さっきまで誰もいなかった場所に、人がいる。

それだけで、一気に怪談めいた空気になります。

さらに舞台中央には、地下へつながっているような仕掛けも。

人物が舞台上から消え、
今度は地下から階段を上がって現れる。

平面的な舞台ではなく、
上にも、
下にも、
奥にも、
別の世界が続いているように感じられます。

小さな劇場だからこそ、観客と舞台との距離も近い。

しかもこの日は最前列。

目の前で現実と幻想が切り替わっていくため、本当に異世界へ迷い込んだような感覚になりました。

(※画像はイメージです。)

「わからない」が気にならない舞台

観劇後、
「結局、あれは何だったんだろう?」
と思う場面はいくつもありました。

宮木は何者だったのか。
最初に会った女性と、その後に現れる女性は本当に同じ存在なのか。

勝四郎が体験した出来事は現実だったのか。
夢だったのか。
時間を越えていたのか。

最後には再び最初のアパートへとつながっていきますが、
すべてが明快に説明されるわけではありません。

背中に残された、人魚のひれや羽にも見える絵。

最初と最後がつながっているようで、
でも、
「では、あの時間は何だったのか」
という疑問は残ります。

普段なら、ストーリーが理解できない舞台は少し置いていかれた感覚になることもあります。

でも、この作品は違いました。

内容が完全に理解できていなくても、
光、
音、
舞台美術、
人物の現れ方、
時間の飛び方。
そうしたものを眺めているだけで面白い。

物語を追うというより、
不思議な夢を見ているような感覚に近かったかもしれません。

古典を知らなくても楽しめた『月を抱く人魚』

『雨月物語』には「浅茅が宿」をはじめ複数の物語があり、
『月を抱く人魚』はその世界やモチーフを取り込みながら、
現代の物語として再構築されている作品だったようです。

だから、
『雨月物語』を知らないまま観たかてこさんが、
「話がつながっているような、つながっていないような」
と感じたのも、ある意味では当然だったのかもしれません。

でも今振り返ると、事前に物語を詳しく調べなかったからこそ味わえた面白さもありました。

次に何が起こるかわからない。
この人物は生きているのかどうかもわからない。

今が現代なのか過去なのかも、いつの間にか曖昧になる。
その感覚を、そのまま受け取る。

舞台には、
「きちんと理解して楽しむ作品」
だけではなく、
「わからないまま世界に浸る作品」
もあるという新たな景色がありました。

(かてこさん撮影:外国籍の方々にも優しい英語字幕付き上演ですね。)

当日の夕方に決めた観劇が、不思議な一夜に

16時頃、
「今日、何か観られるかな」
と探し始め、
18時10分頃に劇場前でチケットを受け取り、
18時30分には最前列で異世界を見ている。

この展開自体も、ちょっと不思議です。

もし、その日の夕方にチケットを探していなかったら、
『月を抱く人魚』を観ることはなかったかもしれません。

舞台との出会いは、必ずしも何カ月も前から予定されているものばかりではありません。

空いた一日。
たまたま見つけたチケット。
なんとなく気になった作品。
そんな偶然から、知らなかった世界へ連れていってもらえることもある。

『雨月物語』を知らず、
ストーリーも知らず、
理解できない部分もたくさんありました。

それでも、
「なんだか不思議だった」
「でも、面白かった」
という感覚が残った『月を抱く人魚』。

すべてを説明してもらわなくても楽しめる。

むしろ、説明されない余白に引き込まれる。
そんな舞台に出会った一夜でした。

ステージに立つ人、その世界を創り上げるすべての人に、心から拍手を。

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関連作品

舞台『月を抱く人魚』を観て、
「この不思議な世界のもとになった『雨月物語』を、もう少し知ってみたい」
と思った方には、上田秋成『雨月物語』を現代語訳付きで読んでみるのもおすすめです。

舞台では、現実と幻想、人間と人ならざるものの境界が曖昧に描かれていましたが、
原典にも幽霊や怪異、人の執念や悲しみなど、今回の舞台につながるモチーフが数多く登場します。

『月を抱く人魚』で感じた“わからないけれど惹き込まれる”感覚を、
今度は原作の言葉から辿ってみるのもひとつです。

現代語訳付きなので、古典に馴染みがない方にも手に取りやすい一冊です。

舞台ファイル:舞台『月を抱く人魚』

かてこさんが赴いた公演日程は以下の通りです。

【公演名】舞台『月を抱く人魚』
【公演期間】2026年8月7日 ~ 2026年8月23日
【会場】シアタートラム
【原作】上田秋成
【脚本】鈴木アツト
【演出】生田みゆき
【企画制作】世田谷パブリックシアター
【キャスト】
岡本圭人、南沢奈央、薬丸翔、鈴木結里、上村聡、松岡依都美、相島一之

観劇&ライブ プラスアイテム

劇場やライブ会場での時間、その日を、少しだけ快適にしてくれる観劇アイテムをまとめました。
みなさまの観劇体験がよりよいものとなりますように。

双眼鏡(オペラグラス)

2、3階席はもちろん1階席でも、表情や舞台設定、背景、衣装の細部まで楽しみたいときに。

はじめての双眼鏡なら、小型なものから。

性能にも多少こだわりたい方には。

水筒

開演前後の水分補給に。劇場周辺で飲み物を探す手間を減らせます。

観劇中の集中力を維持するもの

BASE FOOD

小腹が空いて観劇の集中力が途切れないように。開演前や休憩時間に、手軽に栄養補給を。

ナリス ぐーぴたっクッキー

小腹が空いたときのお守りに。観劇前後の軽い携帯食として。

立見観劇にあると便利なもの

折り畳み椅子

立見だからって、立ちっぱなしでいる必要はないので、持っていくだけで快適に。

夏の観劇にあると便利なもの

携帯扇風機

駅から劇場までの移動や、開場待ちの暑さ対策に。

日傘

劇場までの移動や、物販列に並ぶとき、日差し対策に。

ネッククーラー

真夏の観劇・遠征・屋外待機の体力温存、熱中症対策に。

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